先日来、女性皇族がどうのこうのと言った情報を新聞やネットでで目にしていたが、そんな折の先日、古代の二人の女帝に関するご本をいただいた。
「日本の基礎を創った持統と元明の女帝姉妹」児玉敏昭
奥付きを見ると初版第1刷発表が2022年2月15日というふうに書いてあるので、おやおやまだ出来立てほやほやじゃあないか…と思いつつ、早速ページを繰り始める。
以下、読み進んだ部分、氏からいただいた添え書き等から言える範囲で、このご本について、ネタバレせぬようご紹介してみたいと思う。
まず、描かれた時代はその題名からうかがえるように600年代後半から700年代初頭。701年の遣唐使によってはじめて対外的に「日本」という国号も称されたというし、大宝律令だってこの年だ。藤原京だって平城京だって持統・元明の二人の女帝が成し遂げた大業である。「日本の基礎を創った」とその書名にあるのは、こういった事柄を踏まえてのことだろう。章立ては以下のごとし。
序章
第1章 二人の女帝誕生前夜
近江朝時代から大津皇子事件までがここでは描かれている。当時の海外情勢から壬申の乱、律令制度構築の営みから天武天皇による修史事業の開始、そして天武天皇の死と大津皇子事件がそのおおよその内容である。
第2章 持統天皇
ここでは持統天皇の治世について描かれている。皇子である草壁の死から、自らの即位、柿本人麻呂による王朝の神格化、伊勢行幸と三輪高市麻呂との一件、藤原京の建造藤原不比等の台頭が、そのおおよその内容。
第3章 元明天皇
元明天皇即位から平城遷都、古事記・日本書紀の編纂…萬葉集の編纂、その死と遺言と言ったところがおおよそのところ。
第4章 終章
このご本はいわゆる歴史書ではなく、全体が小説の形をとって描かれている。児玉氏は以前からもいくつかの歴史書を出版しているが、そこでとられていた手法では自らが想像する「古代」が十分描き切れないことに満足できず、このような手法をとったのだという。小説にいわゆる論証の部分をその中に盛り込んでゆくことは極めて難しいことで、それはこの書でも事情は変わらない。したがって、描かれていることは児玉氏が行った資料の読み込みの結果であるとらえればいいのだと思う。
私とてこの時代にはいささかなりの興味を持ち、それなりの勉強をしたことはあるので、私の思うところと児玉氏の説くところとは食い違っている部分は少なくはない。しかしながらこれは古代という、限られた資料でしかうかがい知れないこの時代を考えるにあっては当然ながらにあり得ること。その食い違いをいずれが正しいなどと明確に判断を下すだけの根拠は乏しい。
残された資料から確実に言えることだけを言い表すのが学問であるから、そこには個々の主観的な思いは排除されなければならない。誰が何といっても動かせないものを提示するのが学問なのであるからそうでなければならないのは当たり前である。氏がその添え書きに「この度の書は、論文形式では言いたいことが十分に表現できない」としたのは、このような事情をさすのだと私は思っている。
ではありながら、上の章立てを見ていただいたならばわかる通り、この時代の大切な事柄をもれなく網羅している。小説を読むように楽しみながら通読すれば、「日本」という国が出来上がったこの時代の概要を一通り理解できるようになること請け合いである。